モール依存からの脱却、自社ECで描くブランドの未来

Kstyle Blog Amazon・楽天の悩み

―― Amazon・楽天セラーの次なる成長ステージを「Shopify」で実現する長編ガイド


はじめに ──「売れているのに、なぜか満たされない」その正体

楽天RMSやAmazonセラーセントラルにログインし、売上グラフが前年同月を大きく上回っているとき、人はふつう達成感を覚えます。実際、私自身も何度となくそのグラフを眺めては「やった、また伸びた」と胸をなで下ろしてきました。けれど月末に残る現金を見ると、思ったほど自由に使える資金が増えていない。
そんな瞬間に襲ってくるのが、「この売上は誰のために積み上がっているのだろうか」という疑問です。手数料の支払い、広告費の高騰、ポイント原資の負担。売上が伸びるほど同時に出ていくお金も膨らんでいく。そして何より、購入者の名前も顔も分からない世界で、ブランドの“熱”はどこまで届いているのかさえ見えません。

この違和感は、一言でいえば**「モール依存の限界」**です。
誰かが敷いたルール上で成果を出しているかぎり、売上の主導権も顧客との接点も、すべてプラットフォームに握られたまま。そんな閉塞感が、日に日に重くのしかかってくるのです。


第一章 モールが与えてくれたもの、そして置き去りにしたもの

楽天市場やAmazonは、スタートダッシュを切るには最高の環境でした。巨大なユーザーベース、強力な検索エンジン、決済と配送インフラの完備。商品登録を済ませればすぐにアクセスが集まり、レビューが増え、アルゴリズムが味方すれば瞬く間に売上は伸びます。広告を打ち、キャンペーンに参加し、ポイント還元を積み増せば、短期的な爆発的売上も狙えます。

しかし、この好循環には「費用」という逆回転の歯車が常に絡み合っています。手数料は毎月自動的に引き落とされ、広告費入札は年々高騰し、セールイベントへの参加は半ば必須。利益が削られる構造は避けようがありません。
さらに深刻なのは、顧客情報のブラックボックス化です。
購入者が誰で、何を評価し、どこに不満を抱いたのか。レビュー欄の星と短いコメントはヒントにすぎず、メールもLINEもこちらからは送れません。むしろ、プラットフォームがリターゲティングやCRMを代行する分、店舗は「次の購入をプラットフォームに預ける」状態が続くのです。

モールが置き去りにした物、それは**“顧客と向き合う自由”**でした。


第二章 Shopifyとの出会いがもたらした劇的な視界の広がり

ある日の夜、EC関連の勉強会で“Shopify”という名前を聞きました。世界中で数百万店舗を支えるECプラットフォームであり、月額数千円で自分だけのストアが持てるという。帰宅後すぐに公式サイトを開き、無料トライアルに登録。ほんの30分でテンプレート上に商品写真と説明文を配置し、プレビュー画面を表示したとき、私は小さな衝撃を受けました。

そこには、モールのテンプレートでは実現できなかった“余白”と“語れるスペース”があったのです。トップにはブランドのストーリーを長文で載せられ、商品ページには開発秘話と動画を並べられる。レイアウトも配色もフォントも、すべて自分の判断で決められ、その結果がリアルタイムで反映される。
この時点で、既に「売る場所」から「語る場所」へと景色が変わりました。

さらに驚いたのは、テスト注文を入れた直後に届くダッシュボード通知です。顧客の名前、メールアドレス、住所、注文内容。すべてが手元に表示され、「この人にお礼メールを出す」ボタンまで用意されている。私は初めて、「自分が売った相手と対話できる」喜びを得たのです。


第三章 数字が動くだけの世界から、対話が生まれる世界へ

Shopifyストアを正式に公開した初月、売上はモールの一割にも足りませんでしたが、リピート率と粗利率は大きく跳ね上がりました。理由は単純で、手数料がほとんどかからないうえ、購入後に配信するサンクスメールとLINEステップ配信が高い開封率・クリック率を記録したからです。

購入者の一人に「どこが良かったですか?」と尋ねるアンケートメールを送ったところ、丁寧な長文返信が返ってきました。そこには「ブランドの理念に共感した」「使い方ガイドがわかりやすかった」「次は友人へのギフトも購入したい」といった感想が書かれていました。
このメールをきっかけに、商品案内だけでなく読み物記事や開発裏話を配信した結果、ニュースレターの開封率は平均45%、一部セグメントでは60%を超えました。それまでレビュー依存だった顧客理解が、一気に深い対話へ進化したのです。


第四章 物流と決済の壁は意外と低い

Shopify導入を検討するとき、最も多く寄せられる質問が「今の在庫や物流をどうするのか」です。結論から言えば、FBAや楽天ロジの在庫をそのまま使えばよいので、新たに倉庫契約を変更する必要はありません。Amazon MCF(マルチチャネルフルフィルメント)の設定をONにするだけで、Shopifyの注文が自動でFBA倉庫へ転送され、プライム並みのスピードで出荷されます。

決済についても同様です。Shopify Paymentsを有効化すれば主要クレカ、Apple Pay、最新のあと払いサービスまで対応でき、売り手側の追加手続きは最小限です。つまり、「物流・決済の大掛かりな再構築」は不要であり、入れ替えるのは販売チャネルと顧客との向き合い方だけなのです。


第五章 実データが示す利益構造の劇的改善

導入から半年後、Shopify経由の売上は全体の25%を占めるようになりました。金額にすると月商150万円ほどですが、粗利ベースではモール経由400万円分に匹敵します。これは決済手数料を差し引いても、粗利率が約3倍に高まった結果です。

さらに、LINE登録者の増加に伴いリピート率が上昇しました。モールでは8%前後だったリピート率が、自社ECでは23%まで伸び、定期購入アプリを導入したことでLTVが2.1倍に跳ね上がりました。
広告費も変化しました。モール広告を月20万円削減し、その半分をInstagramとGoogleのリターゲティングに再配分したところ、CPAは30%改善。それまで「どのキーワードで買ったか分からない」状態だったものが、GA4とShopifyのレポートで完全に可視化され、施策と結果の因果関係が追い易くなったのです。


第六章 ブランド価値を“語る”ことで価格競争を超える

最も大きな変化は「値引きしなくても売れる」ようになったことでした。Shopifyストアでは、商品ページに制作工程動画やストーリー記事を配置し、顧客レビューを画像付きで紹介。Instagramでライブ配信を行い、そのアーカイブをブログに埋め込む。こうしたコンテンツが、価格やスペックではなく“共感”で購入を促します。結果として、モールよりも高い販売価格でもCVRが高い状態を維持できるようになりました。

顧客は「モノ」を買うのではなく、「ブランドとの関係」を買うフェーズに移行したのです。


第七章 Shopify導入で得られた“数字化できない”価値

利益やリピート率といった数字以上に、導入効果を感じたのは組織内のモチベーションでした。カスタマーサポートが顧客と直接メールで対話し、開発チームがレビューを元に改良ポイントを議論し、マーケティング担当がストーリーを発信する。この連携が「ブランドを一緒に作っている」という実感を生み、社内文化がポジティブに変わりました。

また、顧客から届く長文の感想や写真付きの使用レポートが、スタッフの励みになり、次の商品企画のアイデアにも直結しました。Shopifyは売るための“機能”であると同時に、ブランドコミュニティを育てる“場”でもあったのです。


終章 自社ECは“独立”ではなく“進化”

Amazonや楽天を完全にやめる必要はありません。むしろモールは新規顧客を集める導線として強力であり、在庫や物流も引き続き利用できます。大切なのは、モールで得た新規顧客を自社ECに招き、深い関係を築き、再購入へ導く循環をつくることです。Shopifyは、その循環を回すエンジンになります。

売上グラフの先にあるのは、数字では測れない顧客との絆です。
自分たちの手でブランドを語り、顧客と対話し、利益をコントロールし、意思決定をスピーディーに行う……。その環境は、月額数千円の投資と、数時間の初期設定で手に入ります。

この記事を読み終えた今こそ、Shopifyのトライアル登録ボタンをクリックし、一つの商品をアップロードしてみてください。たったそれだけで、モール依存からの脱却、そしてブランドの未来を描く旅が始まります。

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